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 ある小さな村に、一匹の勇敢なこぶたがいました。こぶたは言いました。――オオカミを喰ってやる!
 その村には、伝説がありました。知恵を尽くし、オオカミを喰った英雄コブタスの伝説です。勇敢なこぶたは、村の人たちの制止もきかず、村を飛びだしました。
 勇敢なこぶたは、伝説のとおりに、レンガの家を建てました。窓には鉄格子をはめ、鉄の扉もつけました。そして、煙突の下には、大なべを置きました。――よし、これで準備は整った。後はオオカミを待つだけだ。
 勇敢なこぶたは、オオカミを、待って、待って、待ち続けました。そしてついに、空腹で、我慢ができなくなりました。
 勇敢なこぶたは、カブやリンゴを取りに出かけようと、鉄の扉を開けました。すると、扉の向こうには、オオカミが待ち構えていました。勇敢なこぶたは、オオカミに食べられてしまいました。

 オオカミの村にも、こんな言い伝えがありました。――レンガの家には気をつけろ。押しても吹いてもビクともしない。たった一つの入り口には、危険な罠がしかけてある。それでも宝が欲しいのなら、忍耐強く待ち続けよ――と。

(J・ジェイコブ作「三匹のこぶた」より)
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 あいちゃんは あやまる。あめあがりの 水たまりに しずんでた あやしい あんぱんに。

 あいちゃんは あやまる。
「あんたを たべて あげられなくて ごめんね。」
 あやしい あんぱんは こたえる。
「むしろ、俺はそっちの方がいいんだぜ。おじょうさん」

 あいちゃんは たずねる。
「あら、それは どうして。」
 あやしい あんぱんは こたえる。
「このまま、あんも パンも水に溶ければ、俺は名前から逃れられるって算段さ」

 そのとき いちわの カラスが とんできて あんぱん くわえて とんでった。
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 空気が艶かしい存在感をもってまとわりついてくる。汗とも湿気ともつかず、頭からつま先までべとついてむず痒くなる。自分の発する熱気の一切を受け止め、内に溜め込むベッドで、何とかそれを解消しようと悶える。肩をさすり、唇を舐め、鼻をこする。瞼を開けるには重く、閉じるには熱すぎる。朝はまだ来ない。
 頭がぐらつき、思考まで湿って濡れている。だが、その正体をはかりかねた。一言では形容できない滲んだ感覚。
 ふと、それがいつの日にか既に経験していることだと気づいた。思いを馳せる。ぼやけたものに怯えを抱きながらも触れてみた。そう、それは触れる距離にある。形が徐々に作られていく。

 祈るような、切なさ。乏しくとも、探りあてたのはそんなことだった。強い意志でもなく、感傷でもない、祈り。縋りつくことさえない、祈り。ただ、祈るということ。

 鼻先を、かすめるものがあった。風だ。
 窓は開けていない。空気を動かすものは無いように思える。もう一度確かめようと手を掻いたが、分からなかった。
 だが、自然と口には笑みがうかんでいた。胸に手を置き、二度ほど撫でる。
 濡れてかすんでいるものは、だがしかし確かにそこにあり、触れる指を待っているのかもしれない。そしてそれは、濡れながら乾いた清浄さを纏っているのかもしれない。
 夜の終わりに、大きく息を吐き、瞳を閉じた。
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